2026.07.14
令和8年の税制改正で、交通費・駐車場代と食事代の非課税枠が拡充されました。物価高騰への対応策として歓迎する声がある一方、社会保険・労働保険の観点まで踏み込むと、手放しで喜べない側面もあります。企業と従業員それぞれにとって、本当に「得」なのでしょうか。
所得税の観点では、今回の改正はシンプルに有利です。マイカー通勤者の非課税上限は最大66,400円/月に引き上げられ、駐車場代も月5,000円まで非課税で上乗せできます。食事補助の会社負担分の非課税上限も月額3,500円から7,500円へ倍増しました(令和8年4月1日施行)。従業員の手取りが増え、会社は福利厚生費として損金算入もできます。数字だけ見れば、企業・従業員ともにメリットは明確です。
注意が必要なのは、所得税と社会保険・労働保険では「給与」の定義が異なる点です。
「交通費・駐車場代」については、所得税上の非課税限度額にかかわらず、支給額の全額が社会保険の標準報酬月額と労働保険の賃金総額に算入される可能性があります。通勤手当を増額すれば、健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料・労災保険料の算定基礎が上がり、企業と従業員の双方の保険料負担が増加する可能性があります。
「食事補助」についても同様です。社会保険では従業員の自己負担が現物給与価額の2/3未満の場合、差額が標準報酬月額に算入される可能性があります。労働保険では従業員の負担が告示額(現物給与価額)の1/3以下の場合に差額が賃金に算入される可能性があります。所得税上の非課税要件を満たすよう制度設計しても、保険料の算定上は「給与」とみなされる場合があります。
企業にとっては、交通費増額や食事補助の拡充に伴い法定福利費が増加する可能性があります。損金算入による法人税負担の軽減効果はありますが、保険料負担の増加分も含めたトータルコストで試算しておくことが重要です。従業員にとっては、標準報酬月額が上がることで将来の年金受取額が増える側面もありますが、毎月の社会保険料負担が増える可能性もあり、単純に「手取りが増える」とは言い切れない場合もあります。
今回の改正を活かすには、所得税・社会保険・労働保険の三つの観点を横断的に整理した上で制度設計することが不可欠です。「非課税だから得」という単純な発想ではなく、保険料負担も含めたトータルコストで判断することが求められます。顧問税理士・社会保険労務士への相談はもちろん、税務署・年金事務所・ハローワーク・労働基準監督署といった行政窓口も活用しながら、自社の実態に即した最適な制度設計を進めてください。
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