2026.03.10
現在、日本経済は「賃上げを起点とした成長型経済」への転換期にあります。物価上昇を上回る賃上げを持続的に実現し、企業の稼ぐ力を高めるためには、その原資となる労務費の適切な価格転嫁が不可欠です。
しかし、価格転嫁の中でも、労務費の転嫁は長らく進んできませんでした。その背景にはいくつかの要因があります。第一に、日本の取引慣行として「人件費は企業努力で吸収すべきもの」という意識が根強く、原材料費のように外部要因として説明しづらかったことがあります。第二に、労務費は製品ごとの原価に明確に紐づけにくく、交渉材料として可視化しづらいという構造的な課題がありました。さらに、取引関係の力関係から価格交渉自体をためらう中小企業も少なくなく、「言い出しにくさ」が転嫁停滞を招いてきた側面があります。
こうした状況を是正するため、2026年1月に改正された「中小受託取引適正化法(取適法:旧下請法)」では、受注者から価格協議の要請があったにもかかわらず、発注者が協議に応じないことや、必要な説明を行わないことなどが「協議に応じない一方的な代金決定」として禁止項目に追加されました。価格交渉の場に着くことは、もはや努力義務ではなく、経営上当然に求められるコンプライアンスとなったのです。
あわせて重要なのが、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」、いわゆる「労務費転嫁指針」に示された12の行動指針です。この指針には、発注者・受注者それぞれが採るべき/求められる具体的な行動が示されています。公正取引委員会の「令和7年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」で、この指針を「知っている」事業者は、知らない事業者よりも労務費の上昇を理由として取引価格の引上げが行われた割合が16.5ポイント高い結果となっていました。このことより「労務費転嫁指針」について、交渉を前に進めるための実践的な「共通言語」として、理解しておく必要があります。
賃上げの原資は自然に生まれるものではありません。労務費を含めた適正な価格転嫁を進めることこそが、企業の持続的成長と日本経済全体の好循環を支える鍵となります。価格交渉を後ろ向きなお願いではなく、未来への投資を支える経営活動として位置付ける姿勢が、今まさに求められています。
3月は「価格交渉促進月間」です。社会全体で価格見直しを後押しするこの機会を積極的に活用し、自社のコスト構造を整理したうえで、根拠ある協議を進めていきましょう。制度と環境が整いつつある今こそ、一歩踏み出す好機です。
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