リレーコラム

2025.03.11

偶然性の問題

 世の中は偶然に充ちています。たまたま気の合う人と出会った、たまたま探していたものが見つかったなどのラッキーな場合もあるかと思います。この偶然について、哲学者の九鬼周造は、<偶然性の問題>という本で『偶然性とは必然性の否定』と述べています。ここでの偶然とは必然でないこと、「他でもありうる、無くてもよい」状態といってよいでしょう。 

では、この偶然はどのようにして起こるのか、哲学者の田中久文は、<近代日本思想選 九鬼周造>という本の解説において、『それぞれの因果関係のもつ必然的な「同一性」が破られ、独立した二つの因果系列が「遭遇」「邂逅」することにある』と述べています。これは特に人と人との偶然の出会いについてあてはまるでしょう。自分自身は誰かに出会うためにどこかに出かける、これは本人が何かの目的をもって出かけているという意味で必然です。そしてたまたま出会う相手も同様に何らかの目的をもって出かけています。これも相手にとって必然です。ただし、この両者が出会うことが必然ではない、出会うかもしれない、出会わないかもしれないわけです。この二人の出かけるという必然性が遭遇することや邂逅することで偶然が生まれるということになります。もしこの二人が既に知り合いで約束していれば話は別ですが。
この偶然性を成行き的に「たまたまそうなった」と達観するだけでは、マネジメントとしてはどうかと思いますので、この偶然性と上手く付き合うことを考えてみます。これには偶然性を増やすことと、減らすことがあります。まず偶然性を増やすことは出会う量を増やすことです。この量が増えるこということは、その可能性を高めるという意味ではよいことなのですが、同時にお互いが共通の目的や期待の下で出会いたいものです。これは出会う質を高めるといってもよいでしょう。
マネジメントにおいて、「有機的連携」という言葉があります。有機的とは、辞書の定義によれば、多くの部分がぞれぞれの機能や役割を持ちながらも緊密な関係をもって全体を形作っているさまという意味です。また、有機的連携とは、個々は独立した主体であるものの、何らかの共通点や役割分担をもとに一体的なものとして成立している関係です。この有機的連携を促進するためには、まず「出会うかもしれない」という可能性をできるだけ広げることが必要です。そして、同時に共通の目的やビジョンを共有できることでその可能性を絞り込むことができます。確実に出会う者同士であれば、堅実な成果は期待できるかもしれませんが、偶然性の世界に飛び込むことで新たな可能性に出会えるかもしれません。

コメント

コメントフォーム

不適切なコメントを防止するため、掲載前に管理者が内容を確認しています。
適切なコメントと判断した場合コメントは直ちに表示されますので、再度コメントを投稿する必要はありません。

お問い合わせ

Tel.086-225-3635

営業時間 9:00~17:00 定休日:土日祝

  1. ホーム
  2. リレーコラム
  3. 偶然性の問題
TOP